2019年7月29日に長野大学と東南アジア漁業開発センター(Southeast Asian Fisheries Development Center, SEAFDEC)は、研内水面の水産資源や淡水域の生態系に関する研究・教育に関する連携協力を行う旨が書かれた覚書(Memorandum of Understanding, MOU)を結び、2024年7月18日に更新しました。
SEAFDECは、1967年に設立された政府間組織で、ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、日本、ラオス人民民主共和国、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの11の加盟国で構成されています。SEAFDECは、東南アジアの漁業と養殖業の持続可能性を確保するために、加盟国間の協調行動を促進し、促進することを目的としており、タイの事務局(SEC)と研修部(TD)、シンガポールの海洋漁業研究部(MFRD)、フィリピンの水産養殖局(AQD)、マレーシアの海洋漁業資源開発管理局(MFRDMD)、インドネシアの内水面漁業資源開発管理局(IFRDMD)の5つの技術部局があります。
淡水生物学研究所ではこのSEAFDECとのMOUを長野大学とアジア地域の複数の研究教育拠点機関(大学等)をつなぐ持続的な協力関係を確立する第一歩であると位置づけ、各国のSEAFDEC研究所と内水面漁業および淡水生態学の分野における科学技術協力と学術教育協力を推進しています。このMOUに基づく連携協定の実績は次の通りです:
SEAFDECから短期研修生(Dr. Dina Muthmainnah, S.Si., M.Si.)の受け入れ(マリノフォーラム21の支援:2024年7月29日)(SEAFDEC/IFRDMD Link)
SEAFDECの研究評価委員(児玉紗希江、2022年12月, インドネシア・パレンバンへ依頼出張、右写真)
人事交流 SEAFDECから応募してきたAyu Daryani氏を研究支援員として雇用(期間中に論文発表あり)
水産庁研究事業ウナギUにおけるSEAFDECとの連携協力
「4カ国地域のウナギ非公式協議」のEel Task Team 1における連携協力:The 1st Online Workshop of Eel Task Team 1: Progress and challenges for the collection and analysis of long-term time-series data on Japanese eel, February 7, 2023
「4カ国地域のウナギ非公式協議」のEel Task Team 2における連携協力:The 1st Online Workshop of Eel Task Team 2: Tracking the spawning migration of eel species: challenges and ways forward for Japanese eel, February 17, 2023
“The In-House Training on Enhancement of sustainability of catadromous eel resources in Southeast Asia” on December 13–14, 2018 at IFRDMD, Palembang, Indonesia(講師:箱山 洋)
The 2nd Regional Meeting on “Enhancing Sustainable Utilization and Management Scheme of Tropical Anguillid Eels in Southeast Asia” on October 18–19, 2018, Bangkok, Thailandでの講演(箱山 洋)
ニホンウナギは資源の減少が懸念されており、資源管理のために国内及び国際的な協力が行われています。国際的な協力については、日本、中国、韓国及びチャイニーズ・タイペイによる「ウナギの国際的資源保護・管理に係る非公式協議」(以下「非公式協議」)が2012年から継続して行われています。毎年開催される非公式協議ですが、これまでの大きな成果の一つとして、2014年9月の第7回協議での、「ニホンウナギその他の関連するうなぎ類の保存及び管理に関する共同声明」に基づき、各国・地域は、ニホンウナギの池入数量を当時の直近の数量から20%削減することとされました。この共同声明を受け、国内採捕量と輸入量を合計した日本のニホンウナギの池入数量上限は21.7トンと定められ、2024年まで継続しています。
また、2021年の第14回非公式協議では資源管理には科学的な助言の提供が必要という認識から科学者会合を持つことを合意しています。これに基づいて、2022年4月にウナギに関する第1回科学者会合がオンライン開催され、2023年5月に第2回科学者会合が長野県上田市において、2024年6月に第3回科学者会合が東京において開催されています。科学者会合では日本、中国、韓国及びチャイニーズ・タイペイの研究者が中心となり、また、アメリカウナギ、ヨーロッパウナギの水産資源の研究者を招待講演者として招き、議論を深めています。淡水生物学研究所の箱山 洋教授は科学者会合の日本団の団長を務めてきました。写真は上田市で開催した第2回科学者会合のエクスカーションで4カ国・地域の研究者と行政官が淡水生物学研究所を訪れたときのものです。
第1回科学者会合では、ニホンウナギを含むウナギ類に関する科学的知見について意見交換及び情報共有が行われ、ニホンウナギに関する調査活動の連携及び強化のため、科学的活動及び共同研究として、(1) 北東アジアの研究者間で緊密な関係を構築し、資源動向の把握及び予測のための長期時系列データの収集・整理、(2) 産卵場への回遊経路解明のための技術に関する情報交換及び経路データの解析・評価を内容とする付託事項に合意しました。
この合意を受けて二つのタスクチームが発足しました。
タスクチーム 1:北東アジア地域におけるニホンウナギの資源動向を理解し予測するために、北東アジア地域の科学者間の緊密な関係を構築し、ニホンウナギの長期時系列データの収集・整理を行う(チームリーダー Leanne Faulks)
タスクチーム 2:北東アジアおよびその他の地域におけるニホンウナギおよびその他の関連ウナギの河川から産卵場までの移動経路を追跡するための追跡技術に関する情報交換、および追跡データの分析・評価(チームリーダー 箱山 洋)
これらのタスクチームは、まずワークショップ等を通してニホンウナギやウナギ類に関する調査活動の国際的な連携及び強化の端緒を開いたところです。第一回ワークショップは2023年2月13日、17日、第二回ワークショップは2024年4月19日に、それぞれオンラインで行われました。2024年現在のメンバーは43人であり(エキスパートメンバー、オブザーバー、リエゾン、事務局)、アジア-パシフィックにまたがった広域の研究者がチームを作っています(日本、中国、チャイニーズ・タイペイ、韓国、タイ、フィリピン、インドネシア、フィジー、オーストラリア)。
Name | Team 1 | Team 2 | Region |
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Wayne KOSTER | Expert member | Australia | |
Feng ZHAO | Expert member | China | |
Sikai WANG | Expert member | Expert member | China |
Jiaolin ZHANG | Liaison | China | |
Jin WANG | Liaison and Data compiler | China | |
Shuzhi ZHANG | Liaison | China | |
Wei-Chuan CHIANG | Liaison | Chinese Taipei | |
Ching-Hsien HO | Expert member | Liaison | Chinese Taipei |
HsinMing YEH | Liaison | Liaison | Chinese Taipei |
Shenn-Der YANG | Expert member | Liaison | Chinese Taipei |
Wei Hsiang CHANG | Liaison | Liaison | Chinese Taipei |
Ya-Fen CHANG | Liaison | Liaison | Chinese Taipei |
Yen-Hsi CHEN | Liaison | Liaison | Chinese Taipei |
You-Hua CHENG | Liaison | Liaison | Chinese Taipei |
Yu-San HAN | Expert member | Liaison | Chinese Taipei |
Chinthaka Anushka HEWAVITHARANE | Expert member | Fiji | |
Nur Indah SEPTRIANI | Expert member | Indonesia | |
Bambang RETNOAJI | Observer | Indonesia | |
Dina GOFAR (Muthmainnah) | Observer | Indonesia | |
Dwi Sendi PRIYONO | Observer | Indonesia | |
Fajar SOFYANTORO | Observer | Indonesia | |
Andi SOESMONO | Observer | Indonesia | |
Toru SHIMODA | Observer | Indonesia | |
Ni Komang SURYATI | Expert member | Indonesia | |
Shouichiro IIO | Expert member | Japan | |
Hiroshi HAKOYAMA | Expert member | Leader | Japan |
Ishmerai GALANG | Observer | Japan | |
Katsufumi SATO | Observer | Japan | |
Leanne FAULKS | Leader, Observer | Japan | |
Taiki OGAWA | Secretariat | Japan | |
Kyutaro YASUMOTO | Liaison and Data compiler | Japan | |
Noritaka MOCHIOKA | Observer | Japan | |
Alessandra CERA | Observer | Japan | |
Makoto YOSHIDA | Observer | Japan | |
EunYoung Min | Liaison | Republic of Korea | |
Hwan-Seong Ji | Liaison | Republic of Korea | |
Ha-Yun Song | Liaison | Republic of Korea | |
Shin-Kwon KIM | Liaison | Republic of Korea | |
Soobin SHIM | Liaison and Data compiler | Liaison | Republic of Korea |
Prasert TONGNUNUI | Expert member | Thailand | |
Fumiya TAKAHASHI | Observer | Thailand | |
Maria Rowena R. ROMANA-EGUIA | Expert member | Expert member | the Philippines |
Roberto PAGULAYAN | Expert member | the Philippines |
水産庁の水産資源調査・評価推進委託事業(委託事業)および国際水産資源変動メカニズム等解析事業(補助事業)のうちニホンウナギ・ウナギ類を対象とした資源評価・管理に関する研究を行うユニットがウナギユニットです。ウナギユニットでは淡水生物学研究所の箱山 洋教授をリーダーとして39の試験研究機関が協力して2019年度からプロジェクト研究を進めています。
ニホンウナギは、2013年には環境省が絶滅危惧IB類に、2014年にはIUCNが絶滅危惧IB類に指定するなど絶滅の懸念が示されています。近年のニホンウナギの漁獲量減少は国際的な問題であり、IUCNレッドリストの見直し(2019年に見直し、2017年アジアプレアセス、2016年日本プレアセス)、CITESでの検討、水産庁が進める国内管理施策や国際的な資源管理体制の構築(ウナギの国際的資源保護・管理に係る非公式協議および非公式協議のもとでのウナギ科学者会議やウナギタスクチーム)など様々な行政問題への科学的な研究貢献が求められています。
このような背景から、ウナギユニットでは漁獲情報収集、調査、数理統計解析を通じて、ニホンウナギ資源の現状を評価・把握し、資源の回復と持続的利用を確保するための適切な管理方策・調査・数理モデリング・統計解析の高度化を検討し、積極的に成果を公表・活用することで行政貢献を行なっています。
具体的には、次の4課題について研究を進めています:
ウナギ漁業・養鰻業の継続をしつつ、資源回復することで、ウナギ資源の持続的利用を確保する必要がある。近年のニホンウナギの漁獲量減少は国際的な問題であり、IUCNレッドリストの見直し、CITES動物委員会での規制検討、水産庁が進める国内管理施策や国際的な資源管理体制の構築など様々な行政問題への水産資源学的な研究による貢献が求められている。これらの問題に最も重要な役割を果たすのが、数理モデルを枠組みの中心にした、ウナギ資源の動向把握・絶滅リスク評価・池入れ管理に関する研究・開発であり長野大学が研究を進める。ウナギ資源の動向把握については、シラスウナギ漁況と海面のウナギ漁況のモニタリング・シラスウナギ調査を主要な情報源とし、定性的な漁期外情報としてシラスウナギ調査を行う。特にシラスウナギ漁況についてはシラス採捕県が集まるデータの共有・公開に関する会議を行う。また、数理・統計モデルについては信頼の置ける資源動態モデルの開発やその統計的解析方法の高度化を行い、漁獲量・課題2の集団遺伝・課題3の衛星タグによる回遊調査(補助事業)をデータとした管理手法の開発と分析、および絶滅リスク評価および資源動向分析などの資源評価を行う。
漁業によらない資源動向指標としてゲノムから有効集団サイズの推定を行う。有効集団サイズは種内集団の遺伝的多様性の維持に貢献する親の個体数と解釈できるため、資源の遺伝的多様性の指標になる。特に絶滅危惧種では重要な量として求められることが多い。CITESでも漁業以外の資源動向のINDEXを求めており、有効集団サイズはこの要求を満たすと考えられる。シラスおよび黄ウナギのサンプルは、千葉県、静岡県、和歌山県、宮崎県、鹿児島県が採取し、長野大学と水産資源研究所が協力して次世代シーケンサー(NGS)でのシーケンス解析等を行う。また、九大望岡准教授の過去のシラスサンプルなどを用いて過去の有効集団サイズの時系列分析を行い、現在の個体群の健全性を判断する材料とする。Igarashiら(2018)の論文において、ニホンウナギが単一集団から成る(panmixia)とする考え方に対する反論が提示された。Igarashiらの結果が真であれば、本種における有効集団サイズの推定および資源管理単位の考え方の土台を再検討する必要があるため、リシーケンス分析に基づく単一集団仮説の再検証を行う。
ニホンウナギの生育場と産卵場を結び、再生産に寄与する親ウナギの由来(生息場や死滅回遊地域)を特定することが資源の構造を理解するうえで重要である。また、産卵場まで至らない産卵回遊のトラッキングであってもCITES, IUCN, FAO、ウナギの国際非公式協議などで求められているウナギ資源の基礎的な知見の一つとなる。衛星タグを用いた産卵場までのトラッキングは大型のアメリカウナギやヨーロッパウナギでは成功しており、国際的にも有力な手法となっている(Beguer-Pon et al., 2015. Nature Comm., Righton et al., 2016. Sci. Adv.)。しかしながら、体重の小さなニホンウナギにおいては、現在のところ衛星タグでの生育場と産卵場を結ぶ長距離の移動モニタリングは確立しておらず、衛星タグ調査手法の改良および調査による知見の収集と蓄積が現在の課題である。このような背景からウナギ国資補助事業では衛星タグの改良およびそれを用いた調査に関する研究を行う。回遊調査では、ウナギの衛星タグを用いて、複数の生息地での調査を行い海洋の移動データを取得する(長野大学、熊本県、宮崎県、九州大学)。さらに、小型で負担の小さいニホンウナギ用のアルゴスポップアップ衛星タグの改良を行う(信州大学、長野大学)。合わせて、実際の生体へのダミータグ装着実験(短期・長期装着実験)を長野大学の大型水槽等で行い、装着耐性の結果をタグ改良にフィードバックする。また、流体抵抗を減らすためのタグの形状改良に関する数値計算・流水水槽実験等を信州大学が行う。今年度は、さらに信頼性の高い小型で抵抗の小さいタグの改良を目標とするが、最終的には2500km先の産卵場への移動に耐える衛星タグ調査を目指す。
二つのタスクチームにおける研究活動を行う。それぞれ、タスクチームの内容は次のとおりである。タスクチーム1:北東アジア地域におけるニホンウナギの資源動向を理解し予測するために、北東アジア地域の科学者間の緊密な関係を構築し、ニホンウナギの長期時系列データの収集・整理を行う(チームリーダー Leanne Faulks)、タスクチーム2:北東アジアおよびその他の地域におけるニホンウナギおよびその他の関連ウナギの河川から産卵場までの移動経路を追跡するための追跡技術に関する情報交換、および追跡データの分析・評価(チームリーダー 箱山 洋)。国資事業においては、外国のタスクチームのメンバーと連携し、国際的な漁獲データの整備、eDNA調査によるウナギ類の分布と現存量調査、東アジアにおける衛星タグを用いたトラッキング調査についての議論・連携を行う。