趣旨説明
箱山 洋今日の生態学では、基礎研究だけでなく、資源管理や保全などでの応用を目的とした研究も盛んになってきた。ここでは将来予測が重要な目的である。同じデータを用いても、モデルが異なれば予測精度は異なる。したがって、利用できるデータからよりよい予測を行うためには、適当な予測モデルを選ぶことが統計的な問題の一つとなる。この特集の第一の目的は、このような予測のためのモデル選択の統計理論を、わかりやすく解説することにある(箱山 2015a)。また、モデル選択の候補となるモデル構築において、モデルの変数を束ねるモデル・アグリゲーション理論、および、柔軟な混合効果モデルでのモデリングが如何に重要であるかも、それぞれ、巌佐 (2015)、岸野(2015)の各論文で議論される。予測のためのモデル選択について正しい理解を持つことは、予測の問題だけでなく、生態学的なプロセスを理解する方法論を改めて見直す端緒となる。本特集で粕谷(2015)が議論するように、AIC (Akaike's A information criterion;Akaike 1973, 1974)によるモデル選択は検定とは異なる。この特集の第二の目的は、モデル選択の統計理論の基礎を踏まえて、予測と実証の違いについて議論を深め、生態学的なプロセスを理解する方法論を考えることにある(箱山 2015b)。生態学や関連分野では、モデル選択を統計手法として用いる研究は増加しているが、その適用に関しては論争が続いている。2014年3月のEcologyのFORUMにおける特集はその一つの現れである(趣旨説明として、 Ellison et al. 2014)。Akaike (1974)が述べているように、ネストしたモデルを比較するとき、AICの手順は、パラメータ数の2倍で自動的に有意水準を調整した一連の尤度比検定を行うという形をとる。Ecologyの特集において、Murtaugh (2014)は、このことを改めて説明し、P値とAICの差(ΔAIC)は、同一の統計情報を持ち、数学的に互いに変換可能なことを示した。このことから、Murtaugh (2014)は、P値(もしくは信頼区間)を使うのか、ΔAICを使うのかの選択は、適用上の詳細による「スタイル」の問題であると結論した。しかしながら、この「スタイル」の問題であるという主張は、AICの本来の目的と使用法において、正しくはない。なぜなら、赤池が述べているように、任意の有意水準を設定する仮説検定とAICによるモデル選択を比較することはできないAkaike (1974)。AICによるモデル選択の閾値であるΔAIC=0には二つのモデルの期待不一致の推定が等しいという客観的な意味があるが、検定の閾値である有意水準(P=0.05など)は帰無仮説のもとで偶然とは考えにくいデータが得られる確率を任意に設定するものであり、両者は意味も実際の閾値も異なるのである。また、二つのモデルの期待不一致の差が等しいことを帰無仮説として検定をすることは、二つのモデルで通常の尤度比検定を行うこととは異なる。本特集は、第61回日本生態学会大会シンポジウム「生態学におけるモデル選択」から企画された。日本生態学会における研究活動のさらなる向上に、この特集が少しでも貢献できればと考えている。
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