生態学は環境と生物の相互作用を研究する学問分野です。自然は進化的な時間スケールで形成された複雑なシステムであり、その驚くべき性質を理解することは基礎科学としての使命です。生態学の対象とする階層は広く、進化適応を背景に、個体の形質・個体群動態・種間の相互作用などを科学的に理解することを目指しています。生態学は、単に自然史 (natural history) 的な観察を行うのではなく、数理モデルや統計学的手法を土台として、実験的手法や野外調査を行い、科学的な取り組みとして総合的に対象を理解する分野です。また、環境破壊と生態系サービスの減少が大きな社会問題となっていることから、現代の生態学は生物保全への応用科学としての側面も持ち合わせた学問へと変貌してきました。教養課程での本講義では、環境問題への応用にもバランスよく触れながら生態学の基礎について、理論と実践を交えた講義を行います。
シラバス淡水生物学実習は、淡水生物学研究所の豊富なリソースや専門知識を活用し、理論だけでなく学生が実践的なスキルを習得するプログラムです。この実習では、魚類やその他の水生生物の採取から同定、形態形質の観察、倍数性の測定、そしてゲノム分析までを包括的に学びます。さらに、複数の地点で河川水の水温等の測定を行い、そのデータを分析することで他の分野でも使える実践的な統計手法も身に付けることができます。
シラバス
2023年8月9日、ガジャマダ大学生物学部(Faculty of Biology, Universitas Gadjah Mada)が主催する第6回熱帯生物多様性と持続可能な開発に関する国際サマーコース(the 6th International Summer Course on Tropical Biodiversity and Sustainable Development)のTechnology for biodiversity conservationのセッションが行われ、淡水生物学研究所の箱山 洋教授がウナギの衛星タグによるトラッキングに関するレクチャーを行いました。このセッションではDr. Sebastian Lopez MarcanoによるAIとMLの保全活用に関する講義も行われ、学生等からの活発な質疑が行われました。
日本で最も長い河川である信濃川は様々な生態系サービスを提供する一方で、ダムによって大きく分断されています。千曲川・信濃川の漁獲量はかつての1/100から1/1000まで減少し、魚類の減少の懸念が高まっており、その少なからぬ原因は生息地の分断にあると考えられます。
また、一方で、大規模な河川の撹乱(台風19号の被害は記憶に新しいところです)は、人にも淡水生物にも大きな影響を与えています。国土交通省千曲川河川事務所は河川の生物多様性に配慮しつつ千曲川の治水対策(護岸・掘削・遊水池など)の工事を進めていますが、ここでは、いかにして自然に配慮しつつ治水を進めるかという河川生態工学的な研究と実践が求められています。
淡水生物学研究所では、箱山 洋教授が新たに地域の研究者とグループを作り(千曲川・信濃川研究グループ)、国土交通省の競争研究費により、河川生態系における攪乱や河川工作物の存在が、生息地の連続性、さらには個体群・群集の健全性・持続性に与える影響を明らかにしようとしています。
千曲川・信濃川水系および上田市内の本流・支流・用水路を主たるフィールドとして、魚類等の淡水生物の生息地連続性を把握し、出水による河川の攪乱や河川工作物が、その連続性、さらにはメタ個体群の構造や持続性、群集構造、生物間相互作用に与える影響を明らかにする研究を進めています。最終的には、流域全体のシステムとしてどのような規模で魚類の移動を確保する必要があるのかを評価し、魚道の拡充整備などに関する提言としてまとめたいと考えています。
機関名 | 研究者 |
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長野大学・淡水生物学研究所 | 箱山 洋 |
長野大学・淡水生物学研究所 | 児玉 紗希江 |
長野大学・淡水生物学研究所(東北大学) | Leanne Faulks |
長野大学・淡水生物学研究所 → University of Vienna | Alessandra Cera |
信州大学・工学部 | 豊田 政史 |
信州大学・工学部 | 飯尾 昭一郎 |
長野県水産試験場 | 上島 剛 |
長野県水産試験場 | 小松 典彦 |
長野県水産試験場 | 田代 誠也 |
長野県水産試験場佐久支場 | 新海 孝昌 |
長野大学淡水生物学研究所では、高大連携(高大連携の在り方、文部科学省)の一環として、研究所の優れた施設を活用し、生物学、生態学が専門の長野大学教員と生物部・同好会の顧問の高校教員との連携を深め、地域の高校生に生物学を学ぶための活動の場を提供しています。
2023年8月、探究学習の一環として染谷丘高校の白井充大君がモツゴの個体数測定に取り組みました。久野英二先生の「動物の個体群動態研究法 I ―個体数推定法―」(1986)を参考にして除去法から個体数およびその信頼区間の推定を行いました。セルビンを複数用いた今回の調査法は、推定の時間的・空間的な変動性を考慮する工夫をしており、成果は春の日本生態学会・高校生ポスターで発表しました:
Mihiro Shirai1, Akira Maejima1, Sakie Kodama2 and Hiroshi Hakoyama2 (1 Someyaoka High school, 2 IFB Nagano University) Estimation of the population of Topmouth gudgeon in a pond using the removal method 一般講演(ポスター発表) PH-17
上田西高等学校では生徒会の主催でUNMP(上田西高校学びプロジェクト)を定期的に行っています。淡水生物学研究所では、UNMPの生物系の学習分野の講座に協力しています。
2023年年1月28日 第4回UNMP講座A「千曲川の水質を知ろう!」開催。淡水研でのミニレクチャー、千曲川における水質や底生生物の調査、得られたサンプルの研究所での分析(マイクロプレートリーダーを使ったEcoPlate分析や水生昆虫等底生生物の同定)を行いました。
2023年10月15日 第5回UNMP講座「千曲川の水質を知ろう!」開催。児玉紗希江准教授が中心となって対応し、千曲川のフィールドにおいて、水質測定、底生動物相の調査を行い、水生生物相が水質の指標になることを利用した環境省の水質評価マニュアルに準拠して調査結果を調べた結果、千曲川本流と下水処理水の千曲川への排水の間には、水質および水生生物相に顕著な違いがあることを確認できました。
2024年1月27日、第6回UNMP講座「生物多様性について考える」開催。土屋勇満先生の指導のもとに生物同好会および生徒会の生徒など6名の参加があり、それぞれ学習・研究内容を発表し、淡水研教員(児玉紗希江准教授・箱山 洋教授)と活発な議論を行いました。また、淡水研教員からは、生物保全・統計学の基本的な考え方についてレクチャーがあり、高校生たちの理解を深めました。さらに、研究所のフローサイトメトリーを使った動物の倍数性(遺伝子量)の測定について実習を行い、座学の倍数性の進化についての講義と合わせて、生物の倍数性特性の基礎、動物のなかでも両生類はゲノムサイズが大きい傾向があることなどを学びました。
2024年9月23日、第7回UNMP講座が開催されました。5名の生徒が参加し、それぞれの興味のテーマについて発表しました: 千曲川の水質環境と生物の関係、水生昆虫の生態、アカハライモリの生態。また淡水研からはヤツメウナギの生態と千曲川の水質分析についてを話題提供しました。
2022年3月11日 上田西高校生物同好会が研究所見学(顧問:土屋勇満教諭)
2022年10月24日 上田西高校生物同好会が研究所で水質測定と水生生物採集
2023年11月6日 上田西高校生物同好会1年生の宮下志保さんがアカハライモリの保全研究で相談に来所
2022年7月29日に染谷丘高校の高校生9名が、千曲川のゴミ問題、千曲川の生物で探究活動を行う一環として、淡水生物学研究所を訪問しました。
2024年7月29日、東京都千代田区より二松学舎大学附属高校から生物班5名と教員1名が、生物を身近に感じるための課外学習として淡水研を訪れました。高校生らは淡水生物学に関する講義を受けた後、所内でトンボなどの水辺の昆虫を採集し観察を行いました。
上田市議会の議員クラブによる淡水生物学研究所の施設見学及び学習会が行われました。
第15回産学交流ラウンジを淡水生物学研究所で開催し、24名の参加がありました。
課題探究ゼミナール(小林教授担当)の一貫として、環境ツーリズム学部の1年生17名が淡水生物学を訪問しました。
JR東日本が淡水生物学研究所においてアユのバイオロギング研究に取り組みました。
上田市左岸地域協議会委員25名が淡水生物学研究所を訪問しました。
令和4年9月25日に諏訪形公民館から24名の来所があり、勉強会を行いました。 諏訪形誌で素晴らしい活動をされており、今回の訪問も「六十間堤防と長野大学淡水生物学研究所を訪ねる」として淡水生物学研究所の前身の水産研究所時代の歴史をまとめています。
城南公民館から6名の方が参加した淡水生物学研究所の見学会を行いました。
高橋一秋先生の1年生ゼミの一環として、環境ツーリズム学部一年生16名が淡水生物学研究所を訪れ、地域の自然や課題、淡水生物学研究所の取り組み、千曲川の分断化や動物の個性など研究について学びました。
日本政府信託基金プログラム「東南アジアにおける零細漁業及び女性の漁業参画支援と内水面漁業調査手法の開発」の一環として、SEAFDECのMuthmainnah博士が研修で淡水研を訪れました。
小牧自治会から28名の方が参加した淡水生物学研究所の見学会を行いました。
満尾世志人教授の1年生ゼミ生15名が、ゼミ活動の一環として淡水生物学研究所を訪れました。