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甲虫とハチの関係学ぶ:嶋田教授の講演が信濃毎日新聞の記事として取り上げられました

IFB

2022年6月28日に行われた嶋田正和先生による第3回IFBセミナー「マメゾウムシー寄生蜂3種系におけるカオス動態、スイッチング捕食行動、学習規定物質」2022年7月5日の信濃毎日新聞の記事として取り上げられました。

第3回IFBセミナー

日時:2022年6月28日(火)10:30-12:00

場所:長野大学淡水生物学研究所・会議室(上田市小牧1088)

演者:嶋田正和(東京大学 大学院総合文化研究科 名誉教授、広域科学専攻 広域システム科学系 特任研究員、産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 ERATO深津共生進化機構 ヘッドクオーター 研究推進主任)

要旨:マメゾウムシと寄生蜂の食うー食われるの3種系は、簡単な構成でありながら非平衡相互作用のため複雑な動態を示す。今回の講演では、3種食物網の構造として、「頭でっかちの3種系」(捕食者2種)と「末広がりの3種系」(被食者2種)の動態解析を示す。これら3種系は、生態学の中心課題である競争的排除の非平衡化による長期共存、長期カオス動態、スィッチング捕食の振動、学習行動を規定する物質の作用を示す。

(1)「頭でっかちの3種系のカオス動態」:2種の寄生蜂の捕食作用が正反対である。コマユバチは宿主発見効率は高いが、産卵数は少ない。一方、コガネコバチは宿主発見効率は豆内の宿主の密度に依存し、宿主が低密度では宿主発見効率は低く、高密度になると産卵管で吸汁する管を作り、採餌をすることで一挙に産卵数の多さを発揮し、多くの宿主を寄生する。この2種と宿主アズキゾウムシの3種系は1000日にも及ぶ長期の複雑な動態を示し、これはリアプノフ指数が1.0を超えるカオス動態を示す。さらに、個々の豆の集団が空間構造を持つことで、非平衡の時空間動態でストーレッジ効果が発揮され、これが本来は発散傾向にある宿主ー寄生蜂の不安定動態を強く安定化させる作用を示すと予測される。

(2)「末広がりの3種系のスイッチング捕食動態」:コガネコバチはType III の機能的反応を示し、宿主マメゾウムシ2種(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ)の匂いを頼りに寄生・産卵する。これには密度依存的な匂い学習の捕食行動を示し、3種系の個体数動態のセンサス最中に、宿主2種への捕食圧が逆位相の振動を示すことを検出した。これにより、末広がりの3種系は2種の宿主の豆内の成長に伴うタイムラグ2週間の逆位相振動を伴いながら100世代にわたって長期を示した。さらに、宿主マメゾウムシ2種の匂い学習の規定物質をGC-MSで化学分析し、化学合成した物質を宿主不在の豆の表面に塗布するバイオアッセイによって、3種実験系と同様のコガネコバチの寄生行動を誘導することができた。