ホーム / イベント

[長野大学・九州大学共同プレスリリース]:海域間で異なるニホンウナギの回遊行動についての研究論文が出版されました

IFB

2023年7月8日に、海域間で異なるニホンウナギの回遊行動についての学術論文が、SpringerNatureの国際誌Animal Biotelemetryに掲載されました。本研究は、水産資源調査・評価推進事業(ウナギユニット)において、長野大学淡水生物学研究所、水産研究・教育機構、九州大学の共同研究として行われました。

Abe, T.K., Galang, I., Daryani, A. et al. Regional differences in oceanic migratory behavior of Japanese silver eel in waters with different vertical temperature gradients. Anim Biotelemetry 11, 27 (2023). https://doi.org/10.1186/s40317-023-00338-x(阿部貴晃・Ishmerai Galang・Ayu Daryani・南川真吾・望岡典隆・箱山 洋)

研究のポイント

  1. 日本の3地域で、産卵回遊するニホンウナギの衛星追跡調査を行いました
  2. どの地域のウナギも産卵場方向へ移動する傾向がみられました
  3. 回遊行動は海域間で異なっており、水塊構造が一因であることが考えられました

研究概要

長野大学淡水生物学研究所、水産研究・教育機構、九州大学からなる研究チームは、産卵場へと移動するニホンウナギの回遊行動を明らかにするために、ポップアップアーカイバルタグによる追跡調査を、日本の3地域(東海地方、日本海側、東北地方)で行いました。追跡調査の結果、どの地域のウナギも産卵場方向へ移動する傾向があること、回遊行動には地域差があることを明らかにしました。また、回遊行動の地域差には、水塊構造が関係していることが考えられました。

近年、ニホンウナギの資源量は急減少し、適正な資源管理が求められています。一方で、その基礎となる資源構造や海洋での回遊期間は、十分に理解されていません。各地域を出発したウナギの産卵回遊行動を明らかにすることは、ニホンウナギの資源構造や回遊期間をよりよく理解することができます。本研究成果は、2023年7月8日に国際学術誌「Animal Biotelemetry」に掲載されました。

研究の背景と経緯

ニホンウナギは、マリアナ諸島の西部海域で誕生し、仔稚魚は北赤道海流や黒潮などの海流によって東アジアの沿岸域に運ばれます。河川や湖沼、沿岸域で5〜15年生育した後に、ニホンウナギは銀ウナギ(注1)へと変態し、数千km離れた産卵場への回遊を始めます。ニホンウナギは、フィリピン北部から北日本の広い範囲を生育場としますが、各生育場を出発した銀ウナギが産卵場まで到達するかは明らかではありません。近年、ニホンウナギの資源量は急減少しており、適正な資源管理が求められています。その基礎として、資源構造(各産卵場を出発した銀ウナギが産卵場へと到達するのか)や、回遊期間(各産卵場を出発した銀ウナギがどの程度の期間をかけて産卵場へと到達するのか)の理解が重要です。

海洋における魚類の回遊行動を調べるツールとして、ポップアップアーカイバルタグ(ポップアップタグ、注2)があります。ポップアップタグは、国内外のウナギ属魚類にも用いられ、大西洋種では最大で2000 kmを超える移動を追跡することができています。ヨーロッパウナギでは、地域によって回遊行動が異なることや、どの地域のウナギも産卵場方向へと移動する能力(ナビゲーション能力)を有することがわかっていますが、ニホンウナギでは、明らかとされていません。

研究内容と成果

本研究では、これまで黒潮に面した地域でしか行われてこなかったニホンウナギの追跡調査を、日本海側や東北地方を含めた3地域(計6地点)で実施し、各地域を出発した銀ウナギの回遊行動を調べました。

ポップアップタグを装着し、東海地方で放流したニホンウナギは、黒潮に沿って南東方向へ移動する傾向がありました。一方で、日本海側を出発した個体は対馬暖流とは反対方向に移動する傾向がみられ、東北地方で放流した個体は南に移動する傾向がみられました。

海洋を移動する銀ウナギは、夜間は浅めの深度帯(200〜400 m)、日中は深い深度帯(400〜800 m)を遊泳すること(日周鉛直移動)が知られています。本研究においても、東海地方で放流した個体は日周鉛直移動を行っていました。しかし、日本海を移動するウナギは、鉛直移動はしていたものの、日周性はみられず、表層〜約200 mの深度帯を頻繁に往復していることがわかりました。海域間の遊泳行動の違いを考察するために、東海地方と日本海で放流した個体が経験した深度・水温プロファイルを比較してみると、東海地方では、表層から1000 mまでの水温がなだらかに低下していたのに対し、日本海側では深度が深くなると水温は急低下し、深度200 m付近でウナギの活動水温の下限とされる4℃に達していました。以上の結果から、深い深度が利用できない環境では、ニホンウナギは日周鉛直移動を行わないことが考えられました。

今後の課題

本研究によって、東海地方だけでなく日本海側や東海地方で生育したウナギも産卵場へと向かうことができる可能性が示されました。また、海域ごとにウナギの回遊行動は異なっており、水塊構造がその一因であることが考えられました。ヨーロッパウナギでは、ポップアップタグを用いた追跡調査が分布域全域で継続的に実施され、回遊経路だけでなく、回遊行動や回遊期間の地域差が明らかとなっています。ニホンウナギにおいても、ポップアップタグを用いた追跡調査を継続することで、資源管理に資するこれらの基礎情報を明らかにできることが期待されます。

用語解説

(注1)銀ウナギ

ウナギ属魚類は、産卵回遊期になると長距離回遊に適した形態の変化が起こる。体色が黒くなり、金属のような色となるため、銀ウナギと呼ばれる。

(注2)ポップアップアーカイバルタグ

水中では電波が通らないため、データを送信することができない。ポップアップタグは、生体についている間はデータを記録し、切り離され、海面に浮かび上がった後に、データを衛星に送信する。衛星に送信されたデータは、地上の基地局を通じて回収できる。

謝辞

本研究は水産庁 水産資源調査 評価推進事業(ウナギユニット)の補助費を受けたものです

論文情報

掲載誌:Animal Biotelemetry

タイトル:Regional differences in oceanic migratory behavior of Japanese silver eel in waters with different vertical temperature gradients

著者名:Takaaki K. Abe・Ishmerai Galang・Ayu Daryani・Shingo Minamikawa・Noritaka Mochioka・Hiroshi Hakoyama

(阿部貴晃・Ishmerai Galang・Ayu Daryani・南川真吾・望岡典隆・箱山 洋)

DOI:10.1186/s40317-023-00338-x

お問い合わせ先

〒386-0031長野県上田市小牧1088

TEL:0268-22-0594

FAX:0268-22-0544

箱山 洋(長野大学淡水生物学研究所 所長/教授)