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【長野大学プレスリリース】ウナギ属の遺伝集団構造に関するメタ解析論文が国際誌「Fish and Fisheries」に掲載—日本産ウナギを含むウナギ属の単一資源集団としての管理の科学的根拠を強化—

IFB

令和7年7月7日に、長野大学淡水生物学研究所の研究成果として、ウナギ属の遺伝集団構造に関するメタ解析についての学術論文が、国際学術誌Fish and Fisheriesに掲載されました(https://doi.org/10.1111/faf.70007]。

研究のポイント

  1. アメリカウナギ属(Anguilla)の遺伝構造に関する66件の研究をレビューし、ペアワイズの遺伝的分化指標(FST等)の平均値と標準偏差を抽出してメタ解析を実施

  2. Anguilla marmorataを除き、ほとんどのAnguilla種でパンミキシア(全個体が自由に交配する単一集団)の仮説が支持されたが、一部の種は未解明部分が多く、今後の研究が必要とされた

  3. 遺伝マーカーの種類、分化指標の種類、サンプルサイズ、サンプリング範囲が遺伝的分化の検出結果に与える影響をメタ回帰で検討し、今後の研究の改善点としてサンプル数とサンプリング地域の代表性確保が重要と提言

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背景

ウナギ属は世界各地の河川や海域に広く分布し、食文化や経済において重要な水産資源として位置づけられています。特に日本産ウナギ(Anguilla japonica)は、その資源価値の高さから国内外で漁獲量の減少が深刻な問題となっています。ウナギ資源管理の根幹には、「個体群が複数の分集団に分かれているのか、あるいは国や地域を越えて単一の集団として共有されているのか」という集団構造の理解が不可欠です。

研究の目的

本研究は、過去に発表された複数の遺伝学的研究の結果を統計的に総合・分析するメタアナリシス手法を用い、ウナギ属(Anguilla)における遺伝的集団構造がパンミクシア(単一集団)であるかどうかを体系的にレビューし、統計検定することを目的としました。これにより、淡水ウナギ資源管理の科学的基盤の強化を図ります。

研究方法

国内外で発表された66件の関連論文を対象に、集団遺伝構造の指標であるFST値などを抽出し、synthesize(統合効果の推定)とheterogeneity(異質性の検定)に関してメタ解析を実施しました。解析には、遺伝マーカーの種類やサンプル範囲の広さなどの要因を考慮しました。

主な成果

解析の結果、ウナギ属のほとんどの種は遺伝的に混合した単一集団(パンミクシア)であることが確認されました。特に日本産ウナギ(Anguilla japonica)は、国内外の河川や沿岸域にまたがる全分布域で単一の資源として管理可能であることが示されました。一方で、オオウナギ(Anguilla marmorata)は地域ごとの遺伝的差異が明瞭であり、分集団が存在する可能性が示されました。さらに、熱帯域に分布するウナギ種では研究数が少なく、地域差を示すデータの不足も明らかとなりました。また、遺伝的差異の検出には代表的かつ広範なサンプリングが不可欠であることも指摘しました。

意義と今後の展望

本研究は、国際的に権威ある学術誌「Fish and Fisheries」に掲載され、ウナギ属の遺伝的集団構造に関する理解を深める重要な科学的成果となりました。特に、パンミクシアが確認されたことで、ウナギの資源管理を国際的な単一資源として行うための科学的根拠が強化されます。今後は、研究不足が指摘された熱帯ウナギ類の遺伝的多様性や分布変動の解明、環境DNA等の新技術を活用した大規模調査が期待されます。また、気候変動による分布拡大の可能性も踏まえた継続的なモニタリングが求められます。

淡水生物学研究所の取り組み

長野大学淡水生物学研究所は、水産庁予算による大型プロジェクト研究の中核機関として、ニホンウナギをはじめとするウナギ資源の持続的利用と保全に向けた研究を推進しています。国際的な連携も視野に入れつつ、絶滅リスク評価、遺伝的多様性の解析、ウナギの産卵海遊を人工衛星タグによるトラッキング、黄ウナギ・銀ウナギの野外性比調査など多角的なアプローチを展開しています。今後も淡水生物学研究所は、国内外の研究機関や漁業関係者と協力しながら、科学的根拠に基づいた資源管理策の提言と実践を目指し、ニホンウナギの資源管理研究をさらに深化させていきます。

謝辞

本研究は水産庁 水産資源調査 評価推進事業(ウナギユニット)の委託費を受けたものです。

掲載論文情報

問い合わせ先

長野大学淡水生物学研究所 ifb@nagano.ac.jp TEL: 0268-22-0594 FAX: 0268-22-0544 箱山 洋