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箱山教授の絶滅リスクの信頼区間に関する論文がarXivに公開されました

IFB

Hakoyama, H. (2025). Confidence Intervals for Extinction Risk: Validating Population Viability Analysis with Limited Data. arXiv preprint. DOI: 10.48550/arXiv.2509.09965 | PDF: https://arxiv.org/pdf/2509.09965

絶滅リスクの定量評価には、点推定値だけでなく、限られたデータでも情報量を保つ信頼区間(CI)が必要である。 しかし、観測期間が短い場合には不確実性が過大評価され、実用性が低下するという議論が続いてきた。

本研究では、個体群存続可能性解析(PVA)の標準モデルであるドリフト付きウィーナー過程のもとで、絶滅確率 $G$ に対する新しい信頼区間を導出した。提案手法は、ドリフトおよび分散推定量から得られる変換統計量 $\hat{w}$ と $\hat{z}$ の相関をもつ非心t分布を利用し、パラメータ空間における $G(\hat{w},\hat{z})$ の幾何的性質を用いて信頼区間を構築するものである。

モンテカルロ実験の結果、提案区間はデルタ法、モーメント法、ブートストラップなどの従来法と比べ、性格な信頼水準を保ちつつ、より狭い幅のCIを実現することが示された。

特に重要な結果として、時系列が短くても、絶滅確率が非常に小さい場合や非常に大きい場合には信頼性の高い推定が可能であることが示された。 これは「データが少ないとPVAは機能しない」とする長年の懸念を解消するものである。

本手法をニホンウナギ(Anguilla japonica)の64年間の漁獲時系列データに適用した結果、推定された絶滅リスクは IUCN基準E(Criterion E)における絶滅危惧IA類(CR)および絶滅危惧IB類(EN)の閾値を大きく下回ることが確認された。また、その信頼区間も十分に狭く、統計的に高い精度を持つことが示された。 現在、ニホンウナギは基準A(個体群減少)に基づき絶滅危惧IB類(EN)に分類されているが、本解析は、個体群減少率に基づく評価が大規模個体群において実際の絶滅リスクを大きく過大評価することを示している。

これらの結果は、限られたデータ条件下でも、絶滅リスクの信頼区間を統計的に厳密かつ実用的に評価できることを示し、IUCNレッドリスト評価におけるPVAの有効性を実証的に支持するものである。